日経平均先物をロングして日経225オプションを使ったカバードコール戦略は、コールの受け取りプレミアムがある分、損切りに余裕が持てる戦略です。
単体の日経平均先物ロングポジションに対して、損切りラインを下げることも可能です。
一方で、損益グラフを眺めると、逆に損切りラインを切り上げたほうが損失が出ない戦略のようにも見えます。
ですが、リスクとリターンは比例していますので、損切りラインを切り上げたからと言って損失が出ないわけではありません。
このように錯覚してしまう原因は、損益グラフがオプションの「満期時点の姿」を表しているからです。
現実は満期まで時間があるので、現在の姿、そして翌日の姿、翌々日の姿は「満期時点の姿」に近づいていくのですが、完全一致はしないのです。
この記事では、損益曲線を見てなぜ損切りラインを切り上げたほうが損失が出ないように見えるのかを分析したうえで、実際の損益はどうなるのか、そしてこのカバードコール戦略の課題と解決のアイデアを提示します。
カバードコールは損切りラインを切り上げると常に儲かる?
youtubeで公開されている、北浜投資塾特別対面セミナー第2回の「カバードコール戦略」をご覧になった方はこのように感じているかもしれません。
「カバードコールを利用し損切ラインを倍にできることはわかったが、逆に損切りラインを半分にすれば常に儲かるようにも出来るのではないか?」
なぜこのような誤解が生じるかを推測することで、この問題の課題が明確になります。
損益グラフは「満期時点の姿」を示している
第2回「カバードコール戦略」のレジュメを抜粋します。
日経225先物
まずは資料の2-3、日経225先物1枚を買った時の損益グラフです。
横軸が日経225先物の価格水準、縦軸が損益です。
先物の損益グラフは単純です。
満期かどうかにかかわらず、日経225先物の価格が上昇すればダイレクトに損益に反映します。
上昇すればその分利益、下落すればその分損失です。
コールオプション
次にコールオプションの損益グラフが資料に掲載されています。
2-4をご覧ください。
こちらも横軸が日経225先物の価格水準、縦軸が損益です。
オプションは満期までの損益グラフは緩やかなカーブを描きますが、満期時点の姿は直線です。
上記のグラフは満期時点の姿を示していて、グラフの右側の「レ」点マークは「SQ日損益」にチェックが入っています。
なお、このグラフはコールオプションを単独で売った場合の損益グラフです。
日経225先物が22,125円を超えると損失が発生する右肩下がりのグラフです。
日経225先物+カバードコール
では上記の2つのポジションを合算した損益グラフを見てみましょう。
それが資料2-5で示した赤の直線です。
日経225先物が22,125円までは、日経225先物を1枚買った時と並行です。
しかしコールオプションの売りプレミアムがあるので、210,000円分上方に離れています。
22,125円より高くなると、日経225先物は利益を出し続けますが、コールオプションの損失が発生します。
この日経225先物の利益とコールオプションの損失がぴったり一致するので、22,125円以上の損益は相殺されて、赤い直線が水平となります。
以上が損益グラフの見方です。
全てのポジションで、「満期時点の姿」を示しています。
つまり満期になるとこの赤い直線のどこかに落ち着くことが分かっているが、満期前の姿はまだ確定していません。
「損切りラインを切り上げれば負けない」と思える原因は損益グラフの時間推移
「損切りラインを切り上げれば常に負けないのではないか」と考えないためには、このグラフの正しい見方を身に付けなければいけません。
この資料2-6は、前述2-5の損益グラフを拡大したものです。
赤い直線が日経225先物とカバードコールの損益グラフなので、一見すると、
「もし21,000円に損切りラインを設定すれば、赤いラインは縦軸の損益0円ラインを下回ることが無いので、負けが無いのではないか」
と考えられるかもしれません。
たしかにこの損益グラフが「今の損益グラフ」であれば、今はEntry21,170と書いてあるように日経225先物は21,170円で、損切りラインを21,000円に設定すれば絶対に負けないとも解釈できます。
しかしながら、この損益は「満期時点の姿」です。
この損益グラフが実現するのは今ではなく満期が到来したときにはじめて実現するのであり、現時点では赤い直線には従いません。
満期前の期中における損益グラフは別な色でカーブを描きます。
リスクとリターンは比例する
ここで気を付けなければいけないのは、リスクとリターンは比例する投資の原理原則です。
全くリスクが増えずに、カバードコールをしただけで210,000円も有利になることはありません。
何かしら条件が設定されているから、210,000円有利な損益を実現できるのがカバードコールです。
その条件とは、満期まで経過することです。
オプションは、日経225先物の価格が変わらなくても満期まで時間とともに損益が変化します。
よって、満期までの推移は赤で描かれた線ではないのです。
ポジションを建てたときの損益は±0円
ポジションを建てた瞬間の損益はいくらでしょうか。
それは±0円です。
ポジションを組成してすぐに解消した場合には、手数料を除けば損益は生まれません。
よって、「今の損益グラフ」を示す場合は、必ず損益グラフの0点を通過します。
このことから、上図の赤い直線は「今の」損益グラフではないと判断もできます。
では、今の損益グラフはどのようになるのか示します。
この緑の曲線が、今の損益グラフです。
0点を通過して、曲線を描いています。
この緑の曲線が、時間が経過して満期に近づくほど青い直線(※youtubeのセミナー動画資料で示したのは分かりやすく赤く示した直線)に寄っていき、満期には青い直線に従います。
レジュメに掲載している赤い直線は「満期時点の姿」で、一方で「今の姿」は緑の曲線です。
上記のグラフを時系列で進めてみましょう。
下図の検証日、に着目してください。
(その下の数字はポジションを保有した場合の損益なので、今回は無視してください)
黄色の線が、日付を進めたときに緑の線が変化するであろう予想線です。
10日後です。
明らかに黄色の線が青の線に寄っていく様子が見て取れます。
16日後、2月が終わり3月に突入しました。
満期は3月9日です。
このあたりから、黄色の線の斜線部分が、ほぼ青の線と一致しているのが分かります。
このように、緑の線が1日経過するごとに徐々に青の線に近づいていき、最後は青線と一致します。
損切りライン21,000円に今到達すると-12万円損失発生
この緑の曲線(今の損益グラフ)で、仮に損切りラインを切り上げるとどうなるでしょうか。
この緑の曲線は今の姿を示していますので、もし仮に日経225先物が今下落した場合には、この曲線に沿って動くはずです。
もし日経225先物が21,000円に下落した場合は、およそ12万円の損失が生まれることが下の図から分かります。
この時の損益の計算を簡易的にします。
日経225先物のエントリー時の価格は21,170円で21,000円に下落したので、損失は170円×1000倍=17万円です。
しかし実損失は12万で済んでいるので、コールオプションの減価が5万円分あったと考えられます。
- 先物は17万円の損失
- コールは5万円の利益
この両者を合算して、合計で12万円の損失が生まれました。
しっかりと損失が生まれています。
カバードコールで損切りラインを切り上げても、損失が出ないわけではないのです。
日経225先物が損切りされたときにコールもロスカットする点については、レジュメの中でも掲載しています。
レジュメ4-4で登場する、
⑤先物が損切りになった場合にはコールも決済すること!
ここです。
オプションが損益グラフの直線に従うのは、満期の時です。
カバードコールはコールオプションを売りますので、売りオプションが最大利益になるタイミングは、満期に全ての価値が無くなった時です。
満期まで保有していれば、コールオプションを売ったことによる受け取りは全て利益に変わります。
逆に、満期前ではまだ全額利益に変わっていません。
その満期前に日経225先物がロスカットされると、「満期時点の姿」になっていないコールオプションの利益は目減りしています。
その目減り額と日経225先物の損切りラインの額によって、最終的な損益が決まります。
「損切りラインを遠くして損切りされないほうが良い」考え方
カバードコール戦略は、出来るだけコール売りのプレミアムを利益に変えたい戦略です。
よって、満期まで保有し続けることで満額の利益を得ることができます。
ということは、途中で損切りされてしまっては困るわけです。
仮にドローダウンがあり一時的に日経225先物の価格が下落したとしても、損切りで取引を中断することなく株価が回復してくれるのを待つことで、カバードコールの満額の利益が見込めます。
よって、日経225先物の価格の今後の見通しが読めるなら別ですが、もし正確には読めないけど今後もみ合いが続くだろうと考えていたり、緩やかに上昇するのではないかというざっくりとした相場観を反映させるにはカバードコール戦略が向いています。
ポイントはできるだけ損切りしなくて済む水準に損切りポイントを設定しておくことです。
万が一に自分が耐えられないポイントに設定しておくことで、資産は守りつつカバードコールの最大利益を享受できる可能性を残せます。
損切りは小さくしたいのが通常の投資行為ですが、カバードコール戦略については、出来るだけ自分の許容度いっぱいまで損切りラインを遠くして、出来るだけ損切りされないようにして市場のうねりをやり過ごす考えのほうが安定するでしょう。
以上のことはyoutubeの北浜投資塾特別対面セミナー第2回でも詳細に解説しています。
約14分からのパートがカバードコールです。
ぜひ復習のために繰り返し視聴しましょう。
まとめ
カバードコール戦略を採用する場合には、出来るだけ損切りラインを遠くしておいたほうがコール売りのプレミアムを満額もらえる可能性が増えます。
もし損切りラインが近いと、コール売りのプレミアムを満額もらう前に日経225先物を損切りすることになり、その時点までのコール売りプレミアムの減価のみしか利益になりません。
エントリーしてすぐ損切りに会うのか、満期の直前に損切りに会うのかでは利益の額が異なります。
その理由は、オプションの価格が満期までの時間によって変わるからです。
よって満期前に決済したい場合や損切りを被る場合には、どのくらいの損失が起きるのか、そして自己資金に対してどの程度まで耐えられるのかをあらかじめ考えておいて、カバードコール戦略を組むと良いでしょう。
では、今回の事例で挙げたようなオプションの減価による利益と、目標利益から、妥当な損切り価格を決めたいと思いませんか?
「エイヤ!」で裁量で損切りラインを設定するのではなく、もっと緻密にオプションの特徴を検討したうえで損切りラインを設定する考え方があります。
もし具体的やり方を知りたい場合は、下記の「ノックアウトオプションを活用した非常識なアイデア」の有料動画の中で損切りラインの決め方、目標利益についてのアイデアを解説しています。
損益グラフを用いて
- カバードコール戦略やショートストラドル戦略を行う場合にどのように目標利益を設定するのか
- 投資期間はどのくらいを設定するのが妥当なのか
- 日経225オプションを活用するのに1か月の中でどの期間が妥当か
を解説しています。
そして、youtube北浜投資塾特別対面セミナー第2回のセミナーで解説した、カバードコールの最大の問題点である
④損切り逆指値も時間外・週末など取引できないときの暴落には対応できない。
この点につぃても、解消するアイデアを公開しています。
朝5時以降の時間外取引、週末や祝日など日本の取引所が閉まっているときには、損切りが確実に入るわけではありません。
特に日本だけ休みで海外のマーケットが開いているとき(ゴールデンウィークやお盆などの長期連休)は、海外のマーケットの動向によって損切りラインを超えて下落してしまうこともあります。
万が一の事態に備えるための方策として、何が考えられるのか。
その内容を学びあなたの投資に生かすことができます。
オプショントレード普及協会の教育コンテンツではこのような知識を身に付けることができます。