あなたは「どうしても手放したくない株」を持っていますか?
もしあなたがそのような株を持っていたら、相場の急落時にどのような対処をするでしょうか。
投資家によって下記のレベルによって深刻具合が分かれるでしょう。
レベルが高くなるほど、より深刻です。
- レベル1:他の株を損切りして資金を確保する
- レベル2:「俺より市場の評価の方が間違っているんだ!」と声高に叫ぶ
- レベル3:明日のポジティブサプライズを期待して果報は寝て待つ
- レベル4:パソコンのチャート画面をひっそりと閉じて目をつぶる
あなたがレベル4まで経験したことがあるなら、それは深刻な状況です。
レベル1までは投資行為ですが、レベル2以下は単なる精神論だからです。レベル4に至っては仙人のような悟りの境地です。
果たして大切な資金を運用するのに、精神論で切り抜ける方法しか身に付けずに投資をしていて安心できるでしょうか?
もっと技術的に何とかする方法を身に付けたいと思いませんか?
もし「株に保険を掛ける」ことができれば、その悩みは解決します。しかし、株に保険なんて掛けられないと考えているかもしれません。
実は株に保険を掛ける方法があります。それが、オプションです。
2015年8月のチャイナショック時に下落し始めたファーストリテイリング株の保険として日経225プットオプションを購入したら、わずか5.5万円の保険料で100万円を超える利益をあげることができました。
保険が宝くじのように機能してして、保険以上の効果を発揮したのです。
この記事ではどんな銘柄のオプションを買えば保険として機能したのか、利益が出るまでのエントリータイミングと利食いの一部始終を紹介します。
この保険機能さえマスターすればあなたも安心して株を長期保有することができるようになりますよ。
株に保険を掛けるにはプットオプションを買う
含み損が出ても耐えられるためには、含み損が出なければいいのです。
非常に単純明快な結論ですが、含み損が出ないようにすることが投資で一番難しいことになります。
でも含み損を出したとしても、株を長期保有したい場面はあるでしょう。これからキャピタルゲインが見込める場合もあれば株主優待や配当を期待して保有したい場合など多くの場面があります。
含み損を出さないというのは現実的には難しいのですが、もっと現象を細かく分解して、含み損が出てもその含み損を相殺するだけの含み益を他で確保できれば、トータルで損失が出ていないため含み損が気にならなくなります。
この状態を実現することが出来れば、保有した株が含み損になっても安心して保有できますよね。
保有している株が損失を出した時にこそ利益になり、その利益で損を補填してくれる銘柄を持っていれば、含み損に耐え切れずにロスカットしなくて済むからです。
このような機能を持つポジションをヘッジポジションといい、保有した株が逆行して含み損が出てもヘッジポジションが利益を出すので、投資資金のトータルの損益のブレを少なくすることができます。
株式投資は長期保有が大前提と書籍や講演でも多くの解説者が主張しているので、出来るだけ株を長期保有したいと考えたいところですが、実際の相場では1年に1回以上は相場急変が起きます。
100年に1度の経済危機が毎年起きるような世界情勢に加えて、地政学リスクも予期できない状況で、いつ戦争が起きるかも分からない、隣の国のミサイルが北海道を飛び越え続ける現状を考えると、安心して株を長期保有することも難しく感じても無理はありません。
そんな時に、株を損切りしないで済むようなヘッジポジションを持っていたい。そのような要望を叶えるのが、オプションです。
オプションの保険機能で、保険を掛ければいいのです。
株に保険を掛けられる仕組み
家に火災保険や地震保険を掛けられる、車にも車両保険を掛けられる、人にも生命保険や医療保険を掛けられる。
他にも貴金属やスポーツや犬にだってさまざまな保険を掛けられるのに、なぜ金融資産の株だけが保険を掛けられないのでしょうか?
実は、株にだって他の金融商品と同じように、保険を掛けられます。「株に保険を掛けられない」のではなく、多くの人は掛け方を知らないだけなのです。
この保険機能としてのオプションを活用した取引をAさんの事例をこの記事では解説します。
保険は基本的に掛け捨てするものなので、安く掛けておいて保険が機能しなければ万歳、保険が機能したら残念だけど保険金が手に入るから損失を限定に出来る、という安心感を得ながら相場を見ていることが出来ます。
Aはんはどのような心境でヘッジオポジションを持ったのでしょうか。
ファーストリテイリングをヘッジする具体的手法
Aさんは低金利の時代で配当もそれほど期待できないので、リスクをとってキャピタルゲインで利益を追求したいと考えていて、ユニクロを応援する気持ちでファーストリテイリング株を保有していました。
あまり積極的に期待はしていませんが、株主の特権である配当や、株主優待の権利を得るためという目的もあります。
キャピタルゲインが目的ではありますが、テクニカル分析で安いところで仕込んで高いところで売るキャピタルゲインよりも、企業の業績を先取りして業績に対して割安な銘柄であろうと判断してファーストリテイリングを選定しました。
基本は株を保有し続けるつもりで購入していますので、一時的な下落は耐え凌いで何とか保有し続けたいと考えています。
しかしチャートを見ると、今回は天井をつけてあとは下落するしかないようなチャートの形をしているので、念のため保険をかけてみることにした。
株価の上昇益を狙うためには途中でロスカットせずに出来るだけ保有を続けたい、と思える状況がまさにやってきたのです。
株を購入した当時が5万円で目先の高値圏では株価が6万円をつけたので最大20%ほどの利益が出た可能性があり、現時点でも5.5万円を維持しているので10%の含み益は出ています。
もう少し下落するかもしれないけど、そこを切り抜ければまた上昇トレンドに戻るに違いない。そう考えて株をいかに持ち続けるかを考えました。
「機会損失」を防ぎたい人のために
もしこの状況を株式投資を経験していない人が見れば、
下がると分かっているなら決済してまた安くなったら持てばいいんじゃないの?
と思えるでしょう。
しかし、株を保有する人は機会損失を恐れます。
一番後悔するのが、株を持ちきれなくなって損切りをしたと単に株価が急上昇して値上がり益を得られない経験です。
特に一時的な下落は覚悟してもその後は上昇すると思っていれば、ここで損切りすることは難しいものです。
相場の上下にあわせたトレーディングを狙っているわけではなく、ファーストリテイリングは今後も上昇するはずだと考えているので、今損切りをしても、次はどの金額になったら買えばいいか悩ましくなります。
今5.5万円で損切りした瞬間が底値で、あとは反転して株価が6万円まで上がってしまった・・・このような状況になってしまうと、自らの相場観である「長期的には上昇トレンドになるはずだ」という思惑と逆行してしまいます。
そうなると、5.5万円からさらに下げるだろうと思いながらも、ここが底となって反転してしまうと買う場面が無いのです。
今保有している株を売っても買う場面が無いのであれば、売らずに保有していたほうが良いことになります。
このようにして自らの投資判断の正当性を考えると、売るに売れない状況が良くあります。
とは言うものの、何もせずに株価の下落を見ているだけでは含み損が膨らんでいきます。
短期的には下落するだろうと思えるが長期的には上昇するという相場観を反映するためには、この下落相場さえやり過ごせばいいのです。
とは言うものの
レベル2:「俺より市場の評価の方が間違っているんだ!」と声高に叫ぶ
のように強気の思惑を持って精神論で切り抜けるのは投資家らしくないと考えていますので、ここは投資家らしく、保険を掛けようと判断しました。
ではどうやって保険を掛けるのかというと、プットオプションを買うことで、保有株の下落への保険にするのです。
ファーストリテイリングと日経平均の連動性は「ベータ」
日本で取引できるメジャーなオプションは日経225オプションになり、日経平均株価に連動する銘柄になります。
Aさんが持っているファーストリテイリング株の保険として、日経平均株価に連動するオプションをどのくらい買っておけばいいかわかりません。
そこで、保有株であるファーストリテイリング(9983)が日経平均の変動に対してどれくらいの感応度があるのだろうか=これをベータ値ということを突き止めたAさんはこれを適用することにしました。
オプションは日経225オプションしかないのだけど、日経平均とユニクロ(ファーストリテイリング株)の連動性を調べておけば、その比率で適切な保険を掛けられるからです。
このときベータ値は0.6~0.8だったので、この数値を元にヘッジの枚数を決定することが出来ます。
ファーストリテイリングの取得価格は50,000円で100株保有しています。
時価総額では500万円ほどの投資であり、直近高値は62,000円まで上がったものの、現在の株価は55,000円(2016/8/17)となっています。
含み損益+500,000円となっていました。
一方日経225miniですが、現在価格は20,630円(2016/8/17)なっています。
ここで日経平均とファーストリテイリング株との連動性は、日経平均に対する短期的なベータ値から0.6~0.8です。
この数値が意味するところは、日経平均が10%下落するとファーストリテイリングは6~8%下落するということになります。
ヘッジを掛けたい水準は5%を超えた下落に備える
Aさんはファーストリテイリング株が5%を超える下落部分についてはヘッジしたいと考えています。
このファーストリテイリング株の5%下落をベータ値を使って日経平均株価に置き換えて見ましょう。
ベータ値は0.6から0.8の間にあると考えられますが、今回は0.8程度と考えます。
この場合、ファーストリテイリング株5%下落=5×1/0.8=6.25%≒約6%となりました。
つまり日経平均が約6%程度下落したところまでは耐えられるだろうが、それ以上は困るということです。
もしベータ値を0.6と見積もっていた場合は、5×1/0.6=8.3%となりますので、日経平均が8%程度まで下落しても耐えられる計算となります。
このようにベータ値が高いほうが日経平均との連動性が高いことが分かります。
プット1枚は2,000万円をカバーするのでヘッジ過多
ところで、現在のファーストリテイリング株の保有株式時価総額は5,500,000円になります。
日経平均(日経225mini) 現在価格20,630円であり、日経225オプションの取引単位は1000倍なので、想定元本としては2,063万円あるということになります。
よって1単位の利用でも保有株式時価総額を上回ることが分かります。
実はヘッジ過多なのです。
ですが、ヘッジが多いということは安心材料でもあります。
もし支払うオプション料が許せる金額なら、ヘッジ過多のほうが持ち万が一が起きるとヘッジポジションから利益が出るので嬉しい誤算になります。
そこで、現在の日経平均株価に対して約6%安い価格として1,200円程度安い権利行使価格のプットを採用することにしました。
9月限P19500です。この時のオプションプレミアムは55円でした。
日経225オプションは1000倍で取引されるので、55円ということは55円×1000倍=55,000円の保険料の支払いとなります。
現在のファーストリテイリング株の含み益は50万円ありましたので、含み益のおよそ1割を保険料として支払ったことになります。
この比率は保険料としては割高に見えるかもしれませんが、一時的な下落を防いでくれればまた上昇して含み益が増えることを期待しています。
一時期は120万円まで含み益が増えたことを考えれば、たった1割程度の保険料を支払うだけでファーストリテイリング株保有を維持できるなら安いものだという判断をしました。
Aさんの最終結論はプット19500を1枚買った結果100万円以上の利益
よって、2015年09月限P19500を1枚55,000円で買い下落相場に備えました。
実際の相場は、ヘッジ効果が発揮される方向に動きました。つまり日経平均株価が安くなってファーストリテイリング株も下がってしまったのです。
保有しているファーストリテイリング株は47,000円まで下落しました。
もし、直近高値(62,000円)で売れていれば1,200,000円程度の利益を得ることが可能だったかもしれないし、ヘッジを考えた時にヘッジではなく利食いで終わっておけば、株価が55,000円で決済したので500,000円の利益はあったはずでした。
これは「たられば」なので実際に実現したわけではありませんが、相場が下落するとこのような後悔が訪れます。
そこで、Aさんのプットオプションはどうなったのか見てみましょう。
2015年9月11日SQ=18,119円となりましたので、09月限P19500のプットオプションの最終受取金額(保険受取金)は
(SQ権利行使価格の19,500)-(SQ値の18,119円)=1381円に1,000倍を掛けた1,381,000円
となりました。
結局保険料として支払ったプレミアムは5.5万円で、それが138万円になりました。実に20倍以上も利益が出てヘッジ過多が嬉しい誤算となりました。
ではAさんの株はどうなったのでしょうか。
保有株もいったんリセットした結果、実利益は保有株の損失が-30万円、プットオプションの受取が138.1万円、プットオプションの購入代金が5.5万円であり合計して102.6万円の利益を得ることが出来ました。
このように最終的にも利益を得てこの下落相場を乗り切ることが出来ました。
Aさんはプットオプション買いが無駄になるリスクを取って、その結果リターンを得ることが出来ました。
もしかするとプットオプションを買うのではなく、ファーストリテイリング株を一度決済してから底値で拾ったほうがトータルの結果は良かったかもしれません。
しかしながら、Aさんはユニクロを応援していてファーストリテイリング株を保有しているので、相場に合わせて売買するのではなく、株主らしく保有し続ける方針を選択しました。
それこそが株主としての役目、使命であるとAさんは感じていたのかもしれません。
このように、損切りしたいけど損切りできない株、決済できずに塩漬けにしている株というのはよくあります。
このような塩漬け株のリスクをほったらかしにするのではなく、日経平均との連動性をベータ値で測って保険にオプションを掛けることを検討してみてはいかがでしょうか。
そうすれば、株主の特権である配当や、株主優待の権利を手放さずに済むことにもつながります。
まとめ
保険は基本的に掛け捨てするものなので、安く掛けておいて保険が機能しなければ万歳、保険が機能したら残念だけど保険金が手に入るから救われる、という感覚で過ごすことができました。
わずか55,000円のコストで、目先高値圏での利食い分(120万円程度)を挽回することができました。
現物株と指数である日経平均のシンクロ率(ベータ値)を利用してヘッジとして機能するかを考えることで、ファーストリテイリング株のヘッジとすることが出来ました。
ファーストリテイリング株の含み益がなくなる水準に日経225プットオプションの権利行使価格を採用することで、わずか55,000円の保険料で済むことができました。
ヘッジ過多であったため、結果論としては大きな利益が出ました。もし大きく下落していた場合にはさらに大きな利益が出るポジションを実現できました。このポジションは損失限定のプット買いオプションで実現しているので、もし相場が上昇しても最大損失は5.5万円だけで済んでいます。
上記の内容は動画からの引用になります。
この戦略を採用する際に注意点については動画で解説していますので下記の動画を確認してください。
上記サイトにて他の動画も閲覧できます。