住宅にも、車にも、人の命にも保険を掛ける事ができます。
だったら株にも保険を掛けられれば、保有株をずっと持ち続けても安心できるのに、と思ったことはありませんか?
実は株にも保険を掛けることができる方法があります。それが日経225オプションを買うことです。日経225オプションのプットを買えば、保有株の保険の役割を果たします。
その際に保有株との連動性が分かれば、必要なヘッジ枚数も計算で求める事が出来ます。
連動性を知るために必要なのは、保有株と日経平均株価との連動性を示すベータ値だけです。ベータ値さえわかればオプションの最適枚数を計算して適切なヘッジを掛けることが可能になります。
この記事では、東日本大震災のようなイレギュラーな事態が起きた直後に、ソフトバンク株の保険としてオプションを活用した事例を紹介します。
保有しているソフトバンク株の保険として日経225オプションP9500を1枚6.5万円で買っていれば、震災のような下落相場でもオプションから94万円の利益を上げることができて、ソフトバンク株の20万円の損失を充分補填することができました。
あなたもこの記事で株に保険が掛けられる方法を身に付ければ、これからの株式投資でも安全に資産運用ができるようになりますよ。
ベータ値とは日経平均との連動性を示した値
ベータ値とは、日経平均と比較してどの程度動くかを示した値で、過去に日経平均の変動に対してどのくらい連動性があったかを示す数値となります。
この連動性を知る事が出来れば、適切なヘッジ枚数を計算で求める事が出来ます。
専門的な計算方法はインターネット上で検索すれば様々なサイトで解説されていますので、この記事ではその活用法に着目して説明します。
ソフトバンクのベータ値を調べてみると、1.4~1.6でした。
つまり日経平均が10%下落するとソフトバンク社の株は14~16%下落するということを意味しています。
なお、ベータ値は常に一定ではなく、取得する期間の値動きによって数値が変わります。
1に近づけば日経平均と同じ値動きをして、1以下であれば日経平均が変動した割合よりも値幅が小さく、逆に1より大きければ日経平均が変動する割合よりももっと大きく値動きをするという意味になります。
ソフトバンクは1.4~1.6なので、日経平均の値動きよりも変動が大きく、その量がおよそ日経平均の1.5倍あるという意味になります。
銘柄によってはベータがマイナスになっていることもあります。
ベータがマイナスの値になるという意味は、日経平均と逆相関で動いている銘柄であることを示していますので、日経平均が下落したらベータ値がマイナスの株は反対に上昇する銘柄となります。
例えば日経平均ベア2倍上場投信(1360)などは、日経平均が下落するとこの投信の株価が上昇する逆相関の銘柄になり、さらに2倍の連動があるので、ベータ値は-2となります。
ソフトバンク株のベータ値をオプション取引に活用する方法
ベータ値を活用してオプション銘柄を選定するプロセスは、保有しているソフトバンク株がどの程度まで下落しても耐えられるか、またはいくら以下になったら困るかという水準を求めて、その水準に到達した時点の日経平均株価を予想してオプション銘柄を選定することになります。
では2011年3月11日 東日本大震災の発生した前後のソフトバンク株の値動きを見てみましょう。
プットオプションを買うことで、日経平均の下落への保険になるはずだと考えられますが、ただ闇雲に日経225オプションを買うだけでは、どの程度のヘッジ効果になるか分かりません。
そこで必要なのがソフトバンク株が日経平均の変動に対してどれくらいの感応度があるかを示すベータ値です。
2011年3月にソフトバンク株を保有していた場合は、前述したようにソフトバンクのベータ値は1.4~1.6なので、保有株に対して1.4倍~1.6倍の日経225オプションを買っておけば下落をヘッジできることになります。
では、具体的な事例としてソフトバンクの株を取得価格3,000円×1000株で保有していたことを想定してみましょう。
チャートにより、直近高値は3,500円にまで値上がりしていたのですが、東日本大震災が起きた3月11日に、価格は3,300円まで値下がりしていました。
この時点で3,000円で取得していた株の含み益は+30万円になっているため、まだ含み益が残っており多少余裕はあります。
この時に日経225先物を見てみましょう。3月11日時点の価格は10,170円となっています。
保有株式がここから3,000円を割り込んでは困ると考えて、3,300円が3,000円以下になった状態をヘッジしたいと考えいます。
つまり現在の株価から10%を超える下落部分についてをヘッジできれば安心です。なぜなら3,000円以下をヘッジできれば、購入代金より安くならないで済むからです。
ここで登場したヘッジラインであるソフトバンク株10%超下落分、この下落幅を日経平均株価の下落分に計算で置き換えるのにベータ値を利用します。
ソフトバンク株のベータ値を1.6と見積もると、ソフトバンク株が10%下落する場面では日経平均が約6%下落したときと計算することができます。
なぜなら日経平均が6%下落した場合には、ソフトバンク株は1.6倍も変動するから、6%×1.6倍=9.6%約10% と計算できるからです。
よって日経平均が6%下落するまではソフトバンク株が3,000円を割り込むことが無いため、耐えることができます。
ですがそれ以下にソフトバンク株が下落してしまうと困ることを避けるためにヘッジを掛けます。
ヘッジは掛け捨て失ってもいい額で行う掛け捨て保険
基本的にヘッジは損失を回避する行為であり、掛け捨て保険です。よってコストを失う覚悟が必要です。
オプションは日経平均株価よりも権利行使価格が離れていればいるほどオプション料が安いので、出来るだけ安い権利行使価格のオプションを買ったほうがコストは最小限で済みます。
しかし、安い権利行使価格を選ぶ場合は、現在の日経平均株価が権利行使価格に到達するまでは無ヘッジ状態なので、その空白部分はダイレクトに損失が発生します。
ですので、許容できる損失はどのくらいか、そしてオプション料はコストとして支払っても納得できる額であるかどうかが選定のポイントとなります。
また、サイズについても注意が必要です。
本体の保有株に対して大きいサイズのオプションを買えば、それだけ保険が効くことになるので安心感は高まります。
しかし保険が効くということはそれだけオプション料も高くなるので、保険の効果が無かった際にはコストとして失ってしまう金額となります。
このバランスを図る事がとても重要になりますので、東日本大震災の事例を用いて、ヘッジするオプション枚数について、そして選定した権利行使価格について見て行きましょう。
ソフトバンク株の時価総額330万円に対して6.5万円の保険料
ヘッジする保有株式時価総額は330万円なので、330万円分のヘッジを掛ければよいのですが、オプション1枚がヘッジする規模は約1,000万円です。
日経平均(日経225先物) 現在価格10,170円で日経225オプションの取引単位は1000倍だからです。
ソフトバンク株の時価総額330万円と比較すると、1単位の利用でも保有株式時価総額の3倍分ありますのでヘッジ過多となってしまいます。
しかし日経225オプションは1枚単位でしか取引できないことと、付けられている保険料は支払っても構わないと考えられる金額であれば、保険として買っておくことで3倍のヘッジが効くために非常に安心感があります。
銘柄としては日経平均の6%安い権利行使価格を買いたいところなので、約11,000円の日経平均株価から600円程度低い権利行使価格のプットを確認したところ、4限月P9500がよさそうに見えます。
このときP9500は65円で買うことが出来ます。65円というのは1000倍しますので実際の価格は6.5万円になります。
この保険料を高いと見るか安いと見るかが投資判断になります。
ソフトバンク株の時価総額は330万円なので、そのうち6.5万円を保険料に当てるとすると、時価総額の2%程度の保険料になります。
時価総額の2%を掛け捨て保険料として支払うことで、3倍のヘッジが効く保険を購入する事が出来ますので大きな安心感を得られます。
現在の含み益は+30万円ですが、一時期は含み益が+120万円まで伸びていたことを考えると、まだこの時点で利食いはしたくありません。
さらに伸びる余地があるので、今は日経平均が下落しているため一時的に損失になっているものの、本来の株価はもっと高い水準まで行くのではないかと考えられます。
よって保険料を支払ってでもソフトバンク株を持ち続けたいと考えていたので、プットオプションを買うことにしました。
実際の相場で保険効果を発揮して+74万円の利益
この保険の効果は、本体のソフトバンク株の損失-20万円に対して、オプションの利益が94万円出ましたので、トータルでは+74万円の利益となって終わりました。
ではこのオプションを1枚買って、相場がどのように推移して74万円の利益となったのかを見ていきましょう。
2011年04月限P9500を1枚6.5円で買いました。その後さらに相場は下落して保有株は2,800円まで下落しました。
相場にタラレバは禁物ですが、もし震災直後に株を手仕舞っていれば、株価が3,000円よりも高い状態で逃げることは可能だったかもしれません。
震災直後の3300円で手仕舞いしておけば+30万円の利益を確定できたはず、という状態です。
しかし、今回は利食いではなくオプションによる保険を掛けた戦略を採用しました。どうなったのかを見てみましょう。
2011年3月15日には、日経225先物は8,640円と、約2,000円超の下落となり、ソフトバンク株は2,800円です。
この1ヶ月の下落割合を調べると、ソフトバンク株は3300円が2800円になったため、(3300-2800)÷3300=15%でした。
一方の日経平均は10170円が8640円になったため、(10170-8640)÷10170=15%でした。
この両者の結果だけを比較するとベータ値は1が適切となり当初の目論みであった1.4~1.6に達していませんが、これは仕方がありません。
ベータ値は過去の連動割合を示す割合であり、この東日本大震災のようなイレギュラーな相場状況にまで完璧に対応は出来るはずがありません。
本当の連動割合は事が起きてから振り返って計算することで後付けで求められることになりますが、それを事前に予測するのがベータ値となります。
少なくとも日本経済の成長方向と同じ方向を向いているソフトバンク株なので、連動性は高いと考えてよいので、ここでは結果論としてベータ値の短期的な数値は1.0となっていると解釈しましょう。
その時の04月限P9500は1,010円となっていましたので、このオプションの受取額を計算すると、1,010×1000倍=101万円となります。
この101万円の受取額に対して、オプションの保険料を差し引くので6.5万円を引いた94.5万円がオプションから発生した利益となります。
この際に株もいったんリセットした計算をすると、実利益は株の損益+プット受取金額で計算されますので、-200,000+945,000円=+745,000円という結果となりました。
ヘッジサイズが一致してもヘッジ効果は発揮された
今回の事例はソフトバンク株の保有時価総額は330万円だったので、オプション1枚はヘッジ過多でした。
そこで机上計算となりますが、株の保険として適正サイズにしてみたらどうでしょうか。
つまりオプションが1/3のサイズだったと想定すれば、ほぼ株の時価総額と同じだけのヘッジを掛けられたことになります。
計算すると94.5万円÷3=31.5万円となります。
この計算により330万円の時価総額のソフトバンク株と同じ数量でヘッジした想定ができました。
この計算結果により、1/3サイズにしても株の損失の20万円に対してオプションのヘッジの方が効果を発揮していることが分かります。
総資産のポートフォリオに対するベータを求めよう
今回の事例はソフトバンク株のみに対してヘッジを掛けることを検討しましたが、実際にはソフトバンク株だけではなく様々な個別株銘柄を購入しポートフォリオを組んでいることでしょう。
今回の事例を応用すれば他の株を持っている場合でもベータ値を知るだけで株の保険を掛けることができるようになります。
さらには、あなたのポートフォリオ全体が、日経平均の変動に対してどの程度の感応度を示しているのか、ベータ値を算出することでポートフォリオ全体にに対してヘッジを掛けることも可能となります。
そのベータの精度を高めれば高めるほど、最適なヘッジ枚数が算出できることになりますので、もしポートフォリオ全体にヘッジを掛けようと考えている場合はベータの算出を検討してみましょう。
そうすることで、今より安全な資産運用を、保険付きで行うことができるようになります。
ベータ値活用の事例はファーストリテイリング株に保険を掛けるたった一つの方法でも解説していますので確認してみてください。
まとめ
ベータ値を活用してヘッジをしたことで、わずか65,000円のコストで、保険として余りある保険金を受け取ることができました。この利益は、株の直近高値の利食いよりも良いパフォーマンスとなりました。
選定の基準は、株を購入した時の価格である3,000円を割り込むと予想される日経平均株価をベータ値で算出して、その水準の日経225プットオプションを採用したためコストを抑える事ができました。
プット買いは最小単位で購入してもソフトバンク株の時価総額よりも3倍多いポジションのためヘッジ過多となっていましたが、もし仮に等倍のポジションサイズと仮定して検証しても、本体のソフトバンク株の下落分をカバーできる利益をオプションから得られていました。
上記の内容は動画からの引用になります。
この戦略を採用する際に注意点については動画で解説していますので下記の動画を確認してください。
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