相場が上昇するときはコール買いが利益になる。
このようなルールを教科書的に丸暗記していませんか?
公式の丸暗記ではオプションで思うように稼げません。
コールを買っているのに相場上昇で利益にならない原因は3つあります。
1つ目がボラティリティが高い時にコールを買っていること、2つ目が相場が上昇する局面ではボラティリティが低下すること、3つ目が上昇するまでに時間がかかると時間価値が目減りしていくことです。
今回の記事ではこの3つの原因を深堀りすることで、なぜ上昇相場のコール買い戦略が思うように利益を出せないのか分析します。
1.高ボラティリティのオプション
買うオプションのボラティリティが高いと、そのオプションは高値掴みです。
具体的な事例を挙げて説明します。
オプションが100円で買えるのと、200円で買えるのはどっちがお得か考えて見ましょう。
例えばC17000が100円で買えて、相場は上昇してSQ日に17,500円になったとします。
この場合は、上昇益は17,500-17000-100=400円です。
C17000からの受け取りは、SQ値から権利行使価格を引くので17,500円-17,000円=500円です。しかしオプションを買うのに支払った100円を引くので、利益の合計は400円です。
全く同じ相場状況で、C17,000が200円で売っていたとします。
このコールオプションを買った場合の利益は100円分低い300円です。
よって、C17000を100円で買うよりも、200円で買ったほうが100円分不利です。
オプションからの受取額はSQ値-権利行使価格と決まっているので、利益を多く獲得できるかどうかは支払うオプション料によって決まります。
損益分岐点から検証しても安いオプション料が有利
では損益分岐点を基準に考えてみましょう。
C17000を100円で買った時の損益分岐点は、17,100円です。
オプション料で支払った100円を回収するSQ値を計算すれば損益分岐点が分かります。
100円を受け取れるSQ値は、権利行使価格+オプション料=17,000+100=17,100円です。
SQ値が17,100円であれば、C17000のオプションからの受け取り金額が100円で、オプション料を100円支払っていますので損益が0です。
同様にC17000を200円で買った場合の損益分岐点は、17,200円です。
この両者の比較から分かることは、100円で買ったときよりも、200円で買う場面のほうが、相場がもっと上昇なければ損益分岐点を超える事が出来ません。
効果が同じものをわざわざ高いオプション料を支払って買うのはもったいないです。
だからオプション料が安いほうが有利なのです。
今買えるオプション料は割安とは限らない
オプション料は需給バランスで決まります。
高くても欲しいという人が多ければ、高いオプション料で取引されます。
だから市場参加者は現在のオプション料を払っても回収できる見込みがあるくらい上昇するだろうと見越している、ということがこのオプション料の妥当な価格の解釈です。
オプションに参加しているプレーヤーは非常に合理的に計算をして価格をつけているので、損益分岐点もしっかりと把握したうえで取引しています。
そこで先ほどの例題に戻ると、通常100円で買えるC17000が、現在は200円で取引されているということは、それだけ市場参加者が上昇しやすい相場だと解釈していることを意味しています。
この傾向はC17000だけではなく、他の銘柄でも同じように行われています。
よってオプション銘柄ごとに損益分岐点がそれぞれ存在していて、オプション料を見れば市場参加者がどのくらい強気なのか、弱気なのかを推し量る事が出来ます。
そこで、C17000は200円で取引されていて市場参加者の思惑は推し量る事が出来たので、次は他のオプション銘柄も同じように比較して、市場参加者がどのように考えているか把握したいと思いませんか?
そこで登場するのがインプライドボラティリティです。
インプライドボラティリティを見るだけで市場参加者が今の相場をどのように捉えているかが一目瞭然で判断できます。
インプライドボラティリティで横並び比較する
C17000の市場参加者の思惑は分かったとしても、他の銘柄と比較する時に出来るだけ数値を揃えて横並び比較したいですよね?
もしC17000円が200円で取引されている時にC16500が700円で取引されていた場合には、C16500の方がオプション料が高いです。
200円と700円で比較したら至極当然です。
また、アウトオブザマネーのC17500が20円で取引されていたとすると、この時の市場参加者は20円しかオプション料を支払わないのですが、17520円が損益分岐点となります。
C17000を200円で取引する市場参加者がいるのに、C17500のオプション料から17,520円になると考えている参加者がいると解釈すると、かなり予測値に乖離が出ます。
これでは果たして何が正しいのか分からなくなります。
このようにオプション料の大きさだけで決めてしまうと、権利行使価格によって絶対値が変わってきてしいます。
そこで、余計なパラメータを排除して、今のオプション料が割安か割高かを一律で横並び評価する指標があればいいと思いませんか?
需給バランスでどのくらい割高(割安)で買われているのかを数値で把握できるのがインプライドボラティリティです。
ボラティリティスキューを活用したリスクリバーサル戦略のキモでもある、期間や権利行使価格を固定して最後に残ったオプション料だけを比較する指標がインプライドボラティリティです。
オプションを買う際には、このインプライドボラティリティが高い時に買うと高値掴みになります。
C17000のオプション料が100円のときよりも、200円の時のほうがインプライドボラティリティが高いです。
C16500のオプション料が700円の場合はとC17500のオプション料が20円の場合も、このインプライドボラティリティを見ることで比較できます。
このように比較すれば、権利行使価格が異なる銘柄であっても同じ条件で比較できるのが、インプライドボラティリティのメリットです。
2.ボラティリティが低下しやすい上昇相場
オプションを買ったときのボラティリティが高くて高値掴みをした後に、不安要素が少なくなりボラティリティが低下していくと、利益を減らしてしまう要素になります。
ボラティリティが高いということは、それだけ変動可能性があると市場参加者が考えています。
100円しか上昇しないような相場で200円のオプション料が生まれていたら妥当な価格がついていないことになりますが、そのような場面は日経225オプションではほとんど起こりません。
実際には、もしかしたら200円上昇する事があるかもしれないという市場参加者がいるから、200円のオプション料で取引されています。
200円上昇する事があるかもしれない参加者が多ければ多いほど、100円しか上昇しない相場よりも動きやすい相場であると言えるでしょう。
もちろん市場参加者の評価が間違っていることもありますが、市場を動かすのは参加者の取引でもありますので、参加者の意見を参考にするのはとても重要なことです。
ところが、市場参加者の意見を表すボラティリティも、一定ではありません。
相場変動によってボラティリティが低下することもあります。
市場参加者は200円くらい上昇すると確信した相場だったのが、オプションを保有して時間が経ったら、次第に100円くらいしか上昇しないかもしれないと考え始めたら、ボラティリティは低下します。
そのようなボラティリティの低下は、日経225オプションの場合には相場上昇時に表れます。
ボラティリティは上昇方向に変動する可能性だけではなく、上下どのくらい変動するかを示した数値になりますので、動きやすい相場だとボラティリティが高くなり、動かない相場だとボラティリティは低くなります。
これまでの日経平均の特性として、上昇トレンドになると徐々に変動率が低くなって安定していく傾向があります。
だから市場参加者も相場の上昇が続くと下落不安がなくなったと考えて、ボラティリティが低下していくのです。
相場が安定してボラティリティの低下した局面
相場が安定すればボラティリティが低下する顕著な例として2018年2月の場面を紹介します。
2月6日は2月6日はアメリカ相場が過去最大の下げ幅を記録して、日本もその影響を受けたので、今後どうなるか分から無いという思惑からボラティリティが急騰しました。
その一瞬は日経225オプションのボラティリティも上昇しましたが、その後は徐々に安定してきています。
楽天証券のwebサイトで見ることができる日経VIチャートがこちらです。
引用:https://www.rakuten-sec.co.jp/web/market/data/jniv.html
日経VIとは日経225オプションの代表的なオプションのインプライドボラティリティを採用していますので、現在のボラティリティの状況を表した縮図のようなものです。
しかしその後は何事も内容に日経VIは下落していることがわかります。
相場が凪に戻っていくのに従って、ボラティリティも元の水準に戻ろうとしています。
元の水準に戻っているのは、スパイク的に一時的に上昇したけど、その不安が取り除かれ始めて徐々に安定していくからです。
このとき日経平均株価はやや上昇しています。
日経平均が安定するというのは、相場が右肩上がりになるということであり、右肩上がりになるとオプションを保険として買う人が少なくなって、オプションのボラティリティも安定するのです。
違う例も挙げてみましょう。
2017年の凪相場です。
2017年は大きな変動が少なく、ボラティリティも低位で推移したので日経VI指数も20ポイント以下を推移しました。
特に目立った波乱も無い凪相場だと、ボラティリティはほとんど上昇しません。
その代わりに日経平均株価も、ほとんど1日の動きが無い状態で、徐々に下値を切り上げた場面でもあります。
ボラティリティは変動率を示していて、上昇でも下落でも、とにかく変動するかどうかを予測した値となりますので方向性は関係がありません。
上昇するか、下落するかを予測する数値ではないのです。
2017年の相場では日経平均の1日の値動きが100円以下だとか50円以下という日が何度もありました。
毎日の積み重ねで徐々に日経平均が値を上げていっても、一日の値動き(値幅)が小さいということはボラティリティが小さい相場になります。
ブルは階段を駆け上がり、ベアは窓から飛び降りる、という格言があるように、上昇はコツコツと積み上げていきますが、下落するときは何日間かの上昇分を一日で吹き飛ばして急落してしまう事が多いので、下落するほうが変動率は大きくなります。
よって下落する事があまり無い相場になると、ボラティリティは極めて小さくなります。
顕著に表れているのが先ほど掲載した、2017年の凪が続いた相場です。
当時は下落不安を唱えるエコノミストも少なく、アベノミクスや日銀の黒田総裁の経済政策の効果で日経平均株価が上昇したと言われていて、この状態を維持していればいるほど、時間とともにより安定感が市場参加者に広まるのでボラティリティが低下します。
このような上昇局面でコールを買うと、ボラティリティの低下によって利益が減るのです。
もし買った時のボラティリティも低く仕込んでいればまだ良いのですが、高値掴みしたオプションのボラティリティが低下した際に、本来狙っていた日経平均の上昇よりもオプションボラティリティの低下の方が影響が大きいこともあります。
このボラティリティの低下を補って利益を出すためには、より強い上昇が必要になります。
3.時間価値が減り利益が出ない
コールオプションを買った時の敵はボラティリティだけではありません。時間価値の減少もあります。
オプションを買う行為は、時間価値が減少していくリスクを引き受けた投資スタイルです。
例えば先ほどのC17000が200円で買える状態で、相場が全く動かずにSQ値が17,000円で終了したことを考えてみましょう。
オプションからの受け取りはSQ値17,000円、権利行使価格17,000円と両者が全く同じ価格なので、オプションからの受け取りは0円です。
しかしオプション料は100円支払っているので、100円の損失は確定します。
現物や先物を買って相場が動かなければ損益は生じませんが、オプションの場合は保険料を先に支払っているので、保険金が起きなければ投下資金はまるで掛け捨ての保険です。
この掛け捨て保険になる部分を時間価値と言って、時間が経過すると減っていく性質があります。
先ほどのインプライドボラティリティの目減りに加えて、この時間価値の目減りによっても利益を減らします。
これらの目減りを補うだけの上昇が起きないと、コール買いは負けてしまうのです。
そんな難しい相場を誰が好んで攻めているのか?
以上が3つ揃った相場で、なぜコールオプションを買って勝負する必要があるのか、疑問に思いませんか?
そもそも3拍子揃ったコール買い戦略に不利な相場が果たして存在するのか、思い浮かばないかもしれません。
実はこの相場が、個人投資家がエントリーしたくなるタイミングとしてたくさん散らばっています。
その一例をこの動画で解説しています。
相場が下落した際に逆張り的にコール買いをすると、高いボラティリティのオプションを買ってしまい、利益をボラティリティの低下が邪魔をして利益を取り損ねた、という場面です。
個人投資家が陥りがちな、下落一服相場といえるでしょう。
このような時にボラティリティが高いオプションを買ってはいけません。
特にボラティリティが高くなったあとに、ボラティリティが低下する力よりも強い上昇相場であると確信しない限りは、このコール買いは利益を出すことが出来ないでしょう。
コール買い戦略の難しさ
これまでの一連のオプションの性質を、デルタとベガとセータでカンタンに表現できます。
動画の中で説明した6月27日オプションが持っているデルタが+0.496、ベガが+11.67でした。
ボラティリティが1ポイント低下したらオプション料は11.67円下がります。
もしボラティリティが2ポイント低下するのであれば、オプション料は合計23円ほど目減りしますので、その分デルタで回収するには23円に相当する額をデルタから利益を上げないといけません。
そして困ったことにオプションはデルタとベガだけではなく。セータもあります。
セータが-18.31なので、1日経過すると18円目減りします。
これをデルタで回収しなければいけないのです。
セータとベガによる目減り分を補うだけのデルタからの利益が無いと、このコールオプションは負けです。
このように全ての利益がデルタからの収益に掛かっています。
ベガやセータはお荷物となり、このお荷物を上回る上昇が無い限り勝てない戦略がコール買い戦略です。
プロでも難しいといわれる上昇相場のコール買い
今回紹介した事例は、相場の方向性だけではなく、ボラティリティのトレンドを見る必要があります。
普通の先物投資よりもずっと難しい売買であり、相場の強い方向性に加えて時間的な制約も生まれる戦い方なので、相当オプションに精通したプロディーラーじゃないと利益を上げるのは難しいとも言われています。
ただし投資にはリスクがあればリターンがあります。
難しいということはもし相場を当てる事が出来れば通常の戦略よりも大きなリターンを得られることを意味します。
だからこのような場面をタイミングよく捉えて、果敢に攻めることができれば大きな利益を得られる可能性もある取引です。
強い相場観を持っていない場合は一般的には避けたほうがよいと思われる戦い方ですが、もし上昇を強く確信している場合には果敢に攻めることで小資金で大きな利益を得られる戦い方でもあります。
その際にはコール買いで利益が出ない理由を理解したうえで、メリットとデメリットを比較して投資戦略を構築することをお勧めします。
ただ損失限定だからという理由だけで安易にコール買いを選択すると、ベガとセータに足を引っ張られて思うように利益が出ないこともあると覚えておきましょう。
まとめ
高ボラティリティ時にコールオプションを買って上昇相場で利益を出すのは非常に難しいです。
高ボラティリティは高値掴みであり、上昇相場はボラティリティが低下していくからです。さらにはオプションを買うと時間価値が目減りしていくので、タイミングも重要となります。
コール買い戦略は、オプションを買うタイミングが低ボラティリティの場面なら影響は値上がり益を狙えるチャンスはありますが、動画でも解説したように下落したあとの反転相場を利益に変えようとすると、高ボラティリティでオプション買いに手を出すことになり利益を上げるのが難しくなります。