LEAPS戦略を行う際でもっとも重要なのは、証拠金管理です。
維持証拠金と余力の数値は、現金の増減、保有ポジションの維持証拠金の増減、そして追加・決済したポジションによる維持証拠金の増減によって決まります。
ここではIB証券の証拠金計算方法を元に、現金と証拠金について解説します。
証拠金とは担保として預け入れるお金
「証拠金」とは、商品先物取引で主に使われる用語で、担保として預け入れたお金を元に取引ができる仕組みのことを指します。
現金はバケツの容量でイメージする
下図のように左側のバケツが証券口座に預けている現金で、自己資金となります。
それに対して、右側が証拠金のバケツであり、証券口座の現金によって運用が可能となる取引可能額額を示しています。
株式投資では左のバケツのみで取引を行うのですが、証拠金取引の場合は右のバケツの容量が左のバケツ(証券会社の口座)より増えています。
何も取引をしていない時は右のバケツは空となっていて、現金がプールされているだけとなり、現金より多くの額を運用可能となっています。これが証拠金取引の特徴です。
この現金以上の取引をレバレッジと呼び、日経225オプショであれば約16倍、FXであれば25倍のレバレッジを掛けた取引となります。
この図の大きさでは、左のバケツと右のバケツの大きさは1:2程度なので、2倍のレバレッジをかけた取引が可能であるということを示しています。
そしてこのバケツに入れる水の量をコントロールするのが証拠金取引であり、持っている投資商品のリスクによって右のバケツの水の量が増減していきます。
cash secured put writingの場合
cash secured put writingの概念は、このバケツの大きさが右と左で一致している、つまりレバレッジが1倍、レバレッジをかけていない取引と考えられますので、証拠金取引でありながら現金と同じだけのリスクしか取らない取引となります。
維持証拠金はバケツの中の水と同じ
取引する際に必要となる証拠金は、バケツの中の水として溜まっていきます。
このバケツの中の水をコントロールして、バケツからあふれることがないように取引を調整したり、不利になったらロスカットをして対処していきます。
水が溜まっている量は「必要証拠金」であり、証券会社に拘束される資金、そして「証拠金余力」とはバケツにあとどの程度水が入るのか余裕度を示しています。
水の量は取引や保有銘柄によって変わっていきますので投資家がコントロールすべき項目であり、右側のバケツから水が溢れないようにコントロールできるのなら、多彩な取引が可能となります。
水があふれると強制決済、追証
この水がバケツからあふれた状態になると、投資家のポジションは証拠金不足となり、強制ロスカットや追証が発生します。
FXや銀オプション、IB証券での米国株オプションは強制ロスカット、日経先物・オプションは追加証拠金の要求(=追証)となります。
よって証拠金余力がいかに余裕があるかを常にチェックしておくことが重要となります。
証拠金余力が変動する3つの要因とは
ではここから証拠金余力が低下し証拠金不足になる3つの要因を解説します。
- 現金の増減
- 保有ポジションの維持証拠金の増減
- 追加・決済したポジションによる維持証拠金の増減
次から順番に見ていきましょう。
1.現金の増減
仮に現金が減った場合には、左側の証券口座にあるバケツの容量が少なくなります。
そうすると右側の証拠金にあるバケツの容量も連動して少なくなります。
現金が減ると証拠金余力が減ります。
また、口座開設当初は口座の資金は現金のみとなりますが、株を保有している場合は「流動性資産価値」が増減します。
流動性資産価値とは、現金+株の時価総額ですが、IB証券でオプションを取引している場合はオプションの時価総額が含まれてきます。
流動性資産価値=現金+株の時価総額+オプションの時価総額
つまり株価の変動やオプションのプレミアムによっても流動性資産価値が変動し、それによってバケツの容量である証拠金余力も変わります。
そして、IB証券では「貸付金額を含む資産価値」という項目があります。
貸付金額を含む資産価値=現金+株の時価総額
上記の式と比較して分かるように、貸付金額を含む資産価値には、オプションの時価総額が含まれていません。
そして証拠金余力の式は以下のようになっています。
維持証拠金余力=貸付金額を含む資産価値-維持証拠金
この式より分かることは、証拠金余力には「貸付金額を含む資産価値」に対してどのくらい余力があるかという計算であり、オプションの時価総額は含まれていません。
つまりオプションを売って得たプレミアムは、証拠金余力に影響がありますが、貸付代金を含む資産総額には影響しません。
ではここから具体的な支出が発生する要因について説明します。
入出金による現金の増減
証券口座に自己資金を入出金すると、資金は増減します。
左側のバケツの容量が変わると、右側のバケツの容量も増減します。
保有株式の値動きによる時価総額の増減
資産価値には株の時価総額も含まれていますので、株価が変動すると資産価値が変化します。
株式が含み損になると、資産価値が減ります。
オプション買いによる現金の支出
オプションを買うことは、支出を伴います。
しかし、この支出により維持証拠金が増えることはありません。
なぜならオプション買いというのは損失限定で、証拠金を要求されるポジションではないからです。
この画像はAAPLのプットを買う際の資金の増減を示した注文確認画面です。
手数料を低コストで実現するにはIB証券が最適になりますので、IB証券の画面を表示しています。
このとき現金及び相当額(※)を支出してオプションを購入しているので、「貸付金額を含む資産価値」はプレミアム分だけ低下しています。
(※)ただしIB証券では現金(入金した円)で購入するのではなく、IB証券内でドルに変換されて信用取引になりますので、信用口座の残高が減るという表現になります。
流動性資産価値は変わりません。なぜなら流動性資産価値にはオプションの時価総額が含まれるので、現金がプットオプションの買いポジションに変わっただけでは損益に変化はないからです。
為替
日本円で入金している場合は、為替も影響があります。
円高になると円建てドル運用の口座にとっては有利に働きます。
しかし反対に円安になると口座の現金は減っているように見えます。
もしドル建てて入金してドルを保有していると、為替の影響はありません。
2.保有ポジションの維持証拠金の増減
次に保有ポジションの維持証拠金の増減について見ていきましょう。
この項目は、現在の保有ポジションのポートフォリオによって維持証拠金が変動することを反映しています。
証拠金が増減するのは、証拠金取引をしている対象銘柄の変動が起きることなので、オプション売り玉を保有している際に増減が発生します。
売りオプションは、アット・ザ・マネーとアウト・オブ・ザ・マネーでは必要証拠金が異なります。
IB証券での維持証拠金の計算式は以下のように与えられています。
維持証拠金計算式=(受取プレミアム+次の①~③の最大値)×100倍×枚数
①原資産の20%-アウトオブザマネー相当分 ②権利行使価格の10%
例を挙げると、APPLのP100を売ると、維持証拠金が3,332ドル必要であることがわかります。
一方、P80を売ると1,621ドルで済みます。
このように権利行使価格によって証拠金が異なるということは、相場が変動してアウト・オブ・ザ・マネーがアット・ザ・マネーになるに従って、維持証拠金は増加していくということがわかります。
3.取引による証拠金の増減
取引による証拠金の増減も、前述のAAPLの発注前のプレビュー画面で見てみましょう。
P100を売ると、3,332ドルの維持証拠金が増えます。これが取引による証拠金の増減です。
ですが、プットを売ると、現金が増えて「貸付金額を含む資産価値」の数値も増えていることがわかります。
この事例の場合は1,419ドル増加しています。
つまりバケツの容量(現金)が増えて、水(維持証拠金)も増えているのです。
証拠金余力は
維持証拠金余力=貸付金額を含む資産価値-維持証拠金
であることをすでに説明していますので、プレビュー画面の3段目の維持証拠金が、1段目の貸付金額を含む資産価値を超えない範囲内であれば、バケツの水が溢れずに取引が可能になります。
この時に新規で追加するポジションが、「貸付金額を含む資産価値」<「維持証拠金額」となっていると、売り玉を追加するごとに証拠金余力は減っていくことになります。
できるだけこの差が小さいオプションを選択していくと、売りポジション追加による維持証拠金の増加を抑えることができます。
IB証券の株式保有は時価総額の50%の維持証拠金を拘束
以上の3つの要因を解説しましたが、IB証券で株を保有する場合には、株の時価総額の50%を証拠金として拘束されるというルールがあります。
つまりこれまで説明した2.保有ポジションの増減の項目については、IB証券では証拠金取引となり維持証拠金の増減に寄与し、影響度は1/2で済むことになります。
その分証拠金余力に余裕が生まれるということになります。
ですが、株が値下がりした場合には証拠金の減少量は1/2になりませんので、もし100ドルの株価を50ドルしか証拠金を用意せずに保有した場合には、株価が50ドルになると証拠金不足になります。
この50%の維持証拠金で取引する場合には、冒頭のcash securedされた状態ではありません。
レバレッジが2倍の取引であるといえます。
分散投資の際の証拠金の考え方
このように証拠金は複雑なルールになっていますが、利点があります。
それは複数の投資商品を保有している時に全部合計してリスクを把握できることです。
特に株とオプションを保有していると、現金の増減と維持証拠金の増減がそれぞれ発生してしまうために管理が複雑となります。
それを証券会社上の数字で管理出来るようになっています。
そして、この証拠金余力は、1銘柄あたり一定額用意するのではなく、ポートフォリオ全体で用意しておけば良いことになっています。
例えば、LEAPS戦略で5社に分散した際に、全て100ドルなら株を持ってもいいと考えて、5社ともP100を売っていたとします。
1社あたりの維持証拠金がAAPLの事例のように3,000ドルだったので、維持証拠金は3,000ドル×5社=15,000ドルとなります。
そこで20,000ドル用意して投資を開始した際に、一番のリスクは全銘柄が割り当てになって株に変わってしまうことです。
全て株に変わって100ドルだったとすると、IB証券ではその半分の50%の維持証拠金を拘束しますので、1社あたり5,000ドルとなります。
50,000ドル×5社=250,000ドルの資金が必要となりますので、最大で250,000ドル用意していないといけない計算となるように思えます。
しかしながら、全銘柄が同時にイン・ザ・マネーになり割当があり株式に変わることを避ければ、どれか1社のみ証拠金を用意しておくだけで足ります。
つまり銘柄分散をするときにセクターを分けたり、相関係数が低いものを選定したり、限月をずらしたりして、イン・ザ・マネーに同時にならない用に工夫することで、用意しておかなければいけない資金は少なくて済みます。
分散でバケツをたくさん用意しても、全部足りなくならないように分散することで、水は賄えるのです。
全部の銘柄が証拠金不足になる状態であれば満額必要になりますが、銘柄を分散することで余力を最小限に抑えておくことができ、投資効率は上げられます。
そのためには、個別銘柄ごとに証拠金を設定されるよりも、ポートフォリオ全体で余力を計算してあるほうが効率的に運用することが可能となります。
まとめ
現金はバケツの容量、維持証拠金は水の量。
バケツの容量と水の量が変化することで、余力が変わる。
銘柄分散をすることで、全ての資産に対して余力を確保するのではなく必要な銘柄のみカバーできれば良いため効率的に運用ができる。
具体的なLEAPS戦略についてはLEAPS取引で7ヶ月利回り31.7%を得た具体的手順も参考にしてください。