スキューとは「歪み」を意味し、ボラティリティスキューとはオプションのボラティリティに生じる歪みのことです。
もしそのスキュー(歪み)を目で見ることができて、カンタンにスキューを判別することができれば、相場の上げ下げを当てに行く相場観に加えて、スキューによる優位性も利益に変えられると思いませんか?
そのスキューはインプライドボラティリティを比較すれば分かります。
さらにそのスキューを利益に変える方法が、下落相場で現物をショートしたうえで割高なプットオプションを売り、そのプット売りで得た金額で割安な保険としてコールオプションを買うリスクリバーサル戦略となります。
この記事ではどうやったらスキューを判別できるのか、そしてなぜこのリスクリバーサル戦略が下落相場で有効なのか解説します。
この記事を読み終わる頃には、あなたも相場下落時に恐る恐るショートポジションを取るような通り一辺倒の投資法を脱却して、損失限定でありながらスキューを利益に変えるリスクリバーサル戦略を投資手段の引き出しとして追加できていることでしょう。
【目次】
1.インプライドボラティリティの肝はオプションプレミアム
2.インプライドボラティリティの変動要素を排除するとプレミアムが残る
3.日経225オプションのスキューを判別する方法
4.ボラティリティスキューを活用したリスクリバーサル戦略のポイント
5.下落相場こそ現物ショート+リスクリバーサル戦略
6.スキューの特徴が顕著に現れる下落相場
7.まとめと高ボラティティを判断する方法
1.インプライドボラティリティの肝はオプションプレミアム
インプライドボラティリティはオプションのプレミアムを比較して、高いか安いかを比較できます。
これがスキューをカンタンに判断する方法です。
単純にプレミアムが高いか安いかを比較しても、スキューは判断できません。
実はプレミアムを決定パラメータは変動要因が5つもあるから一律にプレミアムの高低で判断できないのです。
そこで極力パラメータを排除して2つのオプション銘柄を比較したうえで、プレミアムが相対的に割高か割安かを判断できるようにしたのが、インプライドボラティリティとなります。
2.インプライドボラティリティの変動要素を排除するとプレミアムが残る
今回は一般の解説書に出てくるボラティリティの定義(年単位の変動率など)については触れずに、どうやったらボラティリティスキューを活用できるのかを徹底的に解説します。
インプライドボラティリティは①原資産価格、②オプションの権利行使価格、③プレミアム、④残存日数、⑤金利の5要素から計算された数値です。
しかし今回の記事で学べるスキューの特徴やその特徴をどうやって戦略に生かすかを考える場合には、この5要素を全部覚える必要はありません。
なぜなら、同時期に同じ限月のオプション横並び比較するなら、原資産価格も、残存日数も、金利も同じになるからです。
具体的に例を挙げると、4月限のP18375と同じく3月限のP18500のプレミアムを比較したとします。
このとき、同じ日にこの両者のオプションを比較すれば変動要素を減らすことができます。
- ①原資産価格は1つしかありませんので、現在の日経平均株価です。P18375もP18500も原資産価格は同じです。
- ④残存日数は、P18375とP18500で全く同じで3月満期であるSQ日と決まっています。
- ⑤金利も値が決まっています。日本の場合は金利が極めて低いうえに、満期までの期間が同一なら両者の差は無視できるくらい小さく同一と捉えても問題ないと考えられます。
つまりインプライドボラティリティが変化する要素は、②オプションの権利行使価格と③プレミアムしか要素が残っていません。
極論すればインプライドボラティリティとは、権利行使価格とプレミアムで決まります。
そして②権利行使価格は18,375円、18,500円、18,750円・・・と決まっていますので、実際は権利行使価格は選択できる数値が決まっています。
権利行使価格は、単純に原資産価格からの距離で決まっているだけなので、プット側であろうがコール側であろうが、距離が等しければこのパラメータも同一となります。
この距離による要因をも排除すると残るのは③プレミアムだけとなります。
オプションのプレミアムを横並び比較できるようにしたのがインプライドボラティリティになります。
インプライドボラティリティ=プレミアム
という図式が出来上がります。これがインプライドボラティリティのキモです。
これでP18375とP18500のオプションプレミアムが、割高か割安かを比較できるのです。
3.日経225オプションのスキューを判別する方法
日経225オプションのスキューを判別する方法はそれぞれのオプションのボラティリティを結んだボラティリティスマイルカーブで一目瞭然です。
こちらの図をご覧ください。この図が2017年3月23日時点でのボラティリティスマイルカーブです。
当時の時点での各権利行使価格のインプライドボラティリティをそれぞれプロットしして結んだ線になります。
権利行使価格が低くなるほどボラティリティが高くなっているのは、だんだん外側に行くほどオプションプレミアムが割高になっているということを示しています。
しかし着目したいのは、オプションプレミアムの絶対値は権利行使価格が低くなればなるほど価格自体は安くなっています。
絶対値で比較すれば権利行使価格が低くなればオプションプレミアムは安くなりますが、インプライドボラティリティを用いて相対的に比較すると、権利行使価格が低いオプションの方が割高なプレミアムがついているという事がわかります。
市場が全てのオプション銘柄を均等に評価しているなら、ボラティリティのカーブはフラットな水平線になるはずですが、実際はそうなっていません。
これが日経225オプションに発生している、スキュー(歪み)です。
プレミアムが安くても割安とは言い切れない理由
一オプションの権利行使価格が遠ければ遠いほどオプションプレミアムは安くなるのは先ほどの資料で見たとおりですが、オプションプレミアムが高いのか安いのかと、割高か割安かというのは分けて考えないといけません。
安いからと言って権利行使価格が非常に低い位置のプットオプションを買い続けていても、実は割安ではなく逆に高値掴みの場合もあるからです。
そのことに気付かないまま価格の安いオプションを買い続けてても、いつまで経っても利益が出ないということもあるかもしれません。
ではどうやって割安か割高かを判別すのか。その判断基準がインプライドボラティリティです。
インプライドボラティリティで比較するとそのスキューが一目瞭然になります。
「権利行使価格と原資産価格の距離」を考慮したオプションプレミアムの比較が出来るのがインプライドボラティリティであり、そのインプライドボラティリティにスキュー(歪み)が生じているのが日経225オプションです。
権利行使価格が低いオプション(通常はプットオプション)のほうが割高になっています。
この理由は市場参加者はロングポジションの人が多く、常に下落リスクを考慮してプットオプションを買っている人のほうが多いと言われています。
ではこの現象を理解した上でどのようにオプションを活用すればこの現象を投資メリットとしていかせるのか。
それがリスクリバーサルを用いたショートポジションです。
4.ボラティリティスキューを活用したリスクリバーサル戦略のポイント
ボラティリティスキューを活用したリスクリバーサル戦略の最も有効な場面とは、日経平均が下落する相場です。
ロングポジションの場合には株の保険をゼロコストで実現するオプション取引法として、現物株を買ってプットオプション買いで保険を掛けて、その保険コストをコールオプション売りでまかなう手法を紹介しましたが、この手法を下落相場でショートポジションに対して実行することで、ボラティリティスキューのメリットを生かした投資をする事が出来ます。
なぜなら、下落相場なら割高なプットオプションを売って割安なコールオプションを買うからです。
高いプットオプションを売り、その受取分でコールオプション買いの支払分をまかなえば、保険コールの購入代金が掛からないことも可能です。
この理由は日経2225オプションで顕著に出現するボラティリティスキュー(ゆがみ)が現れているからです。
この図を見てわかるように、権利行使価格の低い(権利行使価格が安い)ほうがスキューが出やすいためプットの方がコールよりも相対的に割高です。
もし株の保険をゼロコストで実現するオプション取引法として上昇目線で現物をロングした場合は、保険にプットオプションを買ってその金額をカバードコールとしてコールオプション売りでまかなうことになります。
その場合は割安なコールオプションを売って割高なプットオプションを買うことになります。
これはボラティリティスキューの観点から分析すると、割高なプットを買って割安なコールを売るため、不利な条件下で勝負していることになります。
5.下落相場こそ現物ショート+リスクリバーサル戦略
下落相場になるほど、権利行使価格が安いプットオプションのボラティリティが高まります。
そこで同じ距離分だけ離した権利行使価格のプットを売ってコールを買うと、トータルで受け取りになりますので有利になります。
なぜなら高いプットを売って安いコールを買えるからです。
例えば日経平均が18,935円のときにP18375を125円で売ってC19375を115円で買えば、保険であるコールオプションの買いコストをプット売りが回収し、しかも10円受け取った状態で下落方向で利益が出せるポジションを実現できます。
このポイントは保険としてのコールオプション買い代金分をまかなうようにプットオプションの売りの権利行使価格を選んでいることです。
割高なプットオプションなので距離を遠く設定する事が出来るため利益を伸ばすことができて、さらに相場が上昇してしまった時の保険のコールオプションの買い代金をプットオプションの売りカバーできています。
例えばP18375を@125を売って、同じ金額となるコールオプションを買うことを考えてみると、インプライドボラティリティが低いコールオプションの権利行使価格を近くできるので、ヘッジ効果が高まります。
このように同一価格であれば利益のほうが大きく損失が少なくなる、損小利大がシステム的に実現するのです。
プットオプションの方が相対的に割高だからこのような現象が起きるのです。
もし思惑通り相場が下落した場合にはプットオプションの売りその権利行使価格より日経平均が下がるとになると損失になります。
しかし原資産をショートしている分の利益がその損失をすべてカバーするので、プット売りのリスクはありません。
よってプットの権利行使価格で利食いしたのとほぼ同じ効果が得られます。
6.スキューの特徴が顕著に現れる下落相場
下落相場ではプットオプションのプレミアムが大きくなっていますが、その時にコールオプションのプレミアムはそれほど大きくなっていません。
なぜならボラティリティスキューの特性により、プットのほうがプレミアムが大きくなってもコールオプションのプレミアムはそれほど大きくならないのが日経225オプションの特徴だからです。
そしてそのスキューは下落時にこそ顕著に表れるため、下落相場でエントリーするとスキューを取り出しやすいのです。
このようにすることで、コールオプションの権利行使価格を、原資産価格の近くに設定する事が出来ます。
近くに設定できるということは、損切りラインが近いために非常に安心感のある投資が実現します。
この手法は上方方向へのトレンドを利益にする戦略では実現しません。
日経225オプションは必ずと言っていいほど、プット側のプレミアムが大きいからです。
もちろんプット側のプレミアムがコール側とほぼ同程度の時もあります。
そのときは上昇方向を狙って現物ロングをして無リスクで32万円の利益を得るカバードコールのしくみとはで解説したようにコールを売って上昇益を狙うのも効果的です。
ただボラティリティが高い時にコールオプションで利食い設定をしてプットオプションで保険を掛けるという戦い方を仕掛けると、ボラティリティスキューの分だけプット買いのコストが高くなってしまいます。
だから下落相場のほうがスキューを利益に変えやすいのです。
日経225オプションの特徴であるボラティリティスキューは原資産価格に対してプット側とコール側で等しくなっておらず、プット側(権利行使価格が低いほう)が買われている傾向があるので、このような下落方向の利益を出す戦い方にだけメリットが出てきます。
これが日経225オプションの特徴です。
なぜこの戦略がスキューを狙えるのかというと、日経225オプションの特徴である下落側(プットオプション)が割高で上昇側(コールオプション)が割安になっている状態がだからです。
そしてボラティリティが高くなればなるほど、このスキューが顕著に表れて優位性を取り出しやすくなります。
だから割高なオプションを売って割安なオプションを買うために、下落方向で利益が出る現物ショートのリスクリバーサルを作ることが優位性を取り出して戦えるポイントなのです。
7.まとめと高ボラティティを判断する方法
ボラティリティスキューを狙うには、リスクリバーサル戦略が有効です。
その際に下落相場で割高なプットオプションを売り、割安なコールオプションを買うことでスキューを有効活用できます。
手がけるオプションの権利行使価格は、両者とも同じ距離だけ離せば割高なプットオプションを売っている分だけ受取が多く、もしプットオプションを売っている金額分コールを買おうと思えばコールの権利行使価格は原資産に近づける事が出来るので、損大利小を実現できます。
あとは高ボラティリティになったタイミングを狙って、先物をショートしてコールを買ってプットを売るリスクリバーサルを実行すればボラティリティスキューを狙えます。
では、肝心の高ボラティリティを判断するにはどうしたらよいと思いますか?
実はボラティリティが高い相場を見極めるカンタンな方法があります。
その指標とは何か、そしてその指標をどう使えばいいのか、取引内容の一部始終を動画で解説しています。
この指標が高いと相場が荒れているという目安になります。
市場に不安要素が広がって投資家の心理が穏やかではなくなっている状態なので、通常期よりも相場が下落する可能性が高まります。
あなたがこの指標を知ることで、今回の記事で解説したリスクリバーサル戦略による損小利大の取引を、さらに実現しやすくなるでしょう。