2023年5月18日にサクソバンク証券で行ったウェビナー(https://youtu.be/YkbuN5izz0Q)では配当優良株としてコカ・コーラ株(シンボル:KO)によるカバードコールとターゲットバイイングを解説しました。
ウェビナーの視聴者様から、次のような質問をいただきました。
ハイテク株でカバードコールをやることは避けた方が良いのでしょうか。
もしハイテク株を選んだ理由が、値上がり益も期待したいという理由であれば、カバードコール戦略を選ぶ目的とアンマッチしている可能性があり、その場合はハイテク株を避けたほうが良いと考えます。
この点について動画で解説しています。
以下の記事はなぜハイテク株にはカバードコールが向いていないのか、動画の内容を補足し解説します。
ぜひ動画視聴とあわせてご覧ください。
ボラティリティが大きいハイテク株
ハイテク株でカバードコールを実行したらどうなるのかを、個別株でオプションが一番取引されてるテスラ(シンボル:TSLA)を用いて検証します。
ハイテク株は株価が上下に動きやすい傾向があり、「ボラティリティが大きい」という言い方をします。
下図のように、ボラティリティが小さい銘柄は株価の価格変化が少なく(左図)、ボラティリティが大きい銘柄は株価の価格変化が大きくなります(右図)。
ボラティリティが大きい場合、オプション料は高くなる傾向があります。
2023年4月26日時点の比較として、ハイテク株でボラティリティが大きいテスラのオプション料と、生活必需品銘柄でボラティリティが小さいウォルマートのオプション料の比較をしてみましょう。
このときの株価は共に150ドル近辺にあり、同じ株価水準で、さらに権利行使価格も満期日も同一のオプション料を比較すると、テスラのオプション料のほうがウォルマートのオプション料より高く取引されています。
テスラの来年1月満期のC150のBidは32.65ドル、Askは33.15ドルであり、中値を取ると32.9ドルです。
【テスラ】
一方ウォルマートの来年1月満期のC150のBidは13.00ドル、Askは13.20ドルであり、中値を取ると13.1ドルです。
【ウォルマート】
このようにボラティリティが高い銘柄のほうが、同じ権利行使価格で同じ満期でもオプション料が高いことが分かります。
カバードコール戦略はコールオプションを売ってそのオプション料を収益に変える戦い方なので、ハイテク株のほうがより多くのオプション料を得られるように思えます。
しかしボラティリティが大きくオプション料が高いということは、それだけ株価の変動が大きく株価が上下に変動しやすいことを意味します。
果たして今が上昇局面なのか、横ばいなのか、下落するかは誰にも分かりません。
分かれば相場の方向を予測すればいいのですが、分からないからこそ淡々と実行するのがカバードコールの戦い方です。
今よりも株価が上昇してくれたらラッキーだけれども、株価の上げ下げを気にすることは無くゆったりとした気持ちで資産運用ができるのがこの戦略の特徴です。
「上下70ドル近く変動する」という参加者の思惑
例えば、2023年5月24日時点においてテスラの2024年1月満期のオプションを使ったカバードコールを検証してみましょう。
テスラ株の株価は193.29ドルで、コールオプションの権利行使価格193.33ドル(C193.33)を売ります。
このコールオプションのBidとAskの中値を取ると、およそ35.1ドルのオプション料が付いていました。
ここで検討したいのは、このコールオプションのオプション料がなぜ35.1ドルで取引されているかです。
C193.33のオプション料が35.1ドルであることの意味
オプション料が35.1ドルであることの意味は、市場参加者は35.1ドル上昇するかもしれないししないかもしれない、超えるか超えないかが微妙なラインだとみなしている、と考えられます。
もし買い手か売り手のどちらかに優位性があれば、たちまちオプション料は見直され、どちらにも優位性がない価格に落ち着くはずだからです。
参加者の売り買いが交錯して、落ち着いた値が35.1ドルということは、193.33ドルに35.1ドルを足した228.43ドルが損益分岐点だと市場参加者が考えていることを示しています。
損益グラフを描くとこのような姿になります。
この228.43ドルを超すか超さないか微妙なラインであり、それを反映したのが支払いオプション料の35.1ドルの意味です。
P193.33のオプション料が29.3ドルであることの意味
コールオプションの買いは相場上昇の方向ですが、同様にプットオプションでも損益分岐点を算出します。
P193.33のプットオプションが29.3ドルの値付けをされているということは、193.33-29.3=164.03ドルが損益分岐点となり、この値を超えるか超えないかでせめぎ合っている結果、プットオプションに29.3ドルの値付けがされたと考えられます。
よって損益グラフは次のようになります。
以上でC193.33の損益分岐点とP193.33の損益分岐点を算出することができました。
テスラ株が動く範囲の予想は123.33ドルから263.33ドル
株価は上下どちらに行くか分からないから、C193.33とP193.33を両方買うロングストラドルを組んだとします。
オプションの支払い合計額は64.4ドルです。
193.33ドルにコールオプションとプットオプションの価格合計の64.4ドルを足した257.73ドルがテスラの損益分岐点の上値側です。
同じように下値側は193.33ドルから64.4ドルを引いた128.93ドルが下値側の損益分岐点です。
下図のような損益グラフが出来上がります。
上値はおおむね260ドル付近、下値は130ドル付近までの変動がありえる、と市場参加者が評価していると考えられます。
このロングストラドルからわかる、市場参加者の相場観では、現在の株価から±64.4ドル以上は動く可能性を期待してオプション料合計64.4ドルのコールとプットを買っていると読み解けます。
したがってコールやプット単体のオプション料に対して倍近い変動を価格に反映させていることが分かります。
カバードコールは株価変動のリスクを下げる
ロングストラドルの例に見たように、オプションから考察すると±64.4ドル変動する可能性を予想しています。
しかし、カバードコールでコールオプションを売る場合は、35ドル分の上昇益までしか受け取れず、 70ドル以上に値上がりする可能性があってもその上昇益の半分をオプション料に変換して先に受け取る投資スタイルです。
その代わり、株を保有していて株価が下落した場合は損失をダイレクトに受けますが、カバードコールの場合は35ドルを受け取るから下落しても35ドル分のダウンサイドクッションがあり、株価変動のリスクを下げる働きがあります。
リスクテイクをするテスラ株投資
カバードコールを組むことの意味は、株価変動リスクを下げる効果があります。
ということは、わざわざボラティリティが大きいテスラ株でリスクを抑えるのではなく、もっとボラティリティが小さい銘柄で行った方が価格が安定するとも考えられます。
つまり、テスラ株に投資する場合は、個別株のリスクを取っているので、より大きなキャピタルゲインを狙う戦略を用いたほうがよいのではないでしょうか。
上昇を期待しているのにカバードコールするというのは、上値を放棄しているにもかかわらず、下値は株保有と同程度のリスクを抱えたままであり、リスクリターンのバランスが合いません。
(受け取りオプション料分だけ下落をケアしているとは言えます)
テスラ株のようなリスクを取ってキャピタルゲインを狙う投資スタイルと、相場の変動が少なくてもオプション料と配当で利益を出すインカムゲイン的な投資スタイルとは分けて考えたほうが良いでしょう。
テスラ株のオプション料が高い理由
テスラはボラティリティが大きくオプション料が高いことはすでにお伝えしました。
多額のオプション料もらえるということは、株価が半分になる可能性や、倍になる可能性がある、つまり変動が大きいことの裏返しです。
テスラ株は過去に最大400ドルの高値を付けたものの下落して、今はまだ高値から半分以下にしか回復していないません。
よって市場参加者はまだ上昇や下落のリスクが非常に高い銘柄だと考えているのでしょう。
このような銘柄に投資してはいけない、というわけではありませんが、ボラティリティの大きい銘柄でカバードコールが果たして最適な戦略か、手掛けるメリットは何かを再考してみると良いでしょう。
カバードコール戦略を組んでも問題ない状況
ただし、いかなる場面でもカバードコールをしてはいけないというわけではありません。
テスラの株を保有している人が次のように判断するのは問題ないと考えます。
- 株価が上昇してきたからある程度のところで利食いしようかなと思うが、もう少し利益を伸ばしたいからカバードコールで上値の上昇分をオプション料で先取りする
- ある程度利益が乗ってきたところで下落しそうだから下落のヘッジのためにコールを売ってオプション料を受け取り下落のクッションとして活用する。
このような選択であれば、自分の相場観を生かした戦略として充分効果があるものと考えます。
まとめ
ハイテク株でカバードコールをやってはいけないルールは無いので、なぜ配当優良株がおススメなのか内容をご理解したうえで、それでも選択するのは良いと思います。
ボラティリティが大きく、オプション料も高いのがハイテク株の特徴であることを認識しつつ、カバードコールをするか否かを検討いただければと思います。